2019/10/01 11:44


料理の仕事は不思議な体験からのスタートでした。
ある日、山を散歩していたら「料理をやりなさい」とどこからともなく聞こえてきたのです。
声のような、声ではないような...。でも心臓がドキドキしたのだけは今も覚えています。
よく分からないまま、次の日から私は3年間、何のあてもなく、家にこもって新しい料理を毎日作って、ノートに記録しました。

3年経ったある日、また声が聞こえてきました。「料理教室をやりなさい」と。
戸惑いましたが、その声をそのまま受け入れ、4ヶ月後には料理教室をひっそりと自宅ではじめました。
それが20年前です。

それ以来、この仕事を辞めずに続けてこられたのは、私が普通の主婦であったからだと思っています。主婦はどんなに大変なときでも台所に立たなければならない。ある意味、台所で料理(=自分)と向き合わなければならない時間が毎日続くわけです。それが自分を前へ前へと進めさせてくれたのです。
主婦は「やーめた」とほっぽり投げることはできないから、とにかく台所に立って手を動かしました。それが結局、今につながっているのだと思います。どんな小さいことも、続けることは力になりますね。

20年、主婦として、また仕事として料理をする中で、レシピありきの料理にずっと疑問を感じていました。
studio482+を開設させ、台所道具に向き合うようになってからは、その疑問が確信へと変わっていきました。
レシピというルールの向こう側を観るようになったのです。道具と共に働きながら食材を活かし切る。料理はこれに尽きるのではないでしょうか。

たかが料理。人はそう思うかもしれませんけれど、日々の仕事を一途にやることは結局、自分の道を開かせる一番の方法なのではないかと思うのです。

台所に立って手を動かし、頭を動かしていくうちに、ある日「素描料理」という、私が作った造語ですけれど、そんな言葉が浮かんできました。
素描料理。自分でもまだちゃんと説明できないこの言葉を、ちゃんと表現したいと思いまして、「野菜たっぷり すり鉢料理」「台所にこの道具」を出版させていただいたアノニマスタジオのウェブ連載を書かせていただきたいと、この出版社に申し出たのが今年の1月頃だったと思います。
素描を理解するために、「野菜たっぷり すり鉢料理」の装画を担当した素描家・しゅんしゅんさんとも対談をさせていただき、「僧堂うどん」を食べながら素描について語り合った内容も「連載プレ対談」として掲載しております。

そして、第一回は「豆腐カツレツ」。
20代で料理に目覚めていなかった頃に(へへ)、たまたま見つけた料理で、お寺の尼さんが作っていた精進料理です。
何十年経っても、変わらずにおいしい料理です。素朴な料理ですが、心が温かく、静かになる料理です。

これから不定期でありますが、この連載を続けて参ります。
皆様、どうぞよろしくお願い致します。